リビドー


 
(※まさかの真紀十斗×真紀破軍。男同士の性描写を含みます。BL苦手な方はごめんなさい。
 作者的にはノンケ攻め×襲い受けのつもりで書いてますが、読みようによっては破軍×十斗としても読めます。
 てゆか大本命の十斗×ここののエロさえ書いてないのに先にBLで書いちゃうってどういうことなの・・・
 設定など色々捏造してますが広い心でどうぞ。)
























 新橋にあるJ&H事務所にほど近い、ワンルームマンションの一室。
 互いにフリーの倒魔士として都内を拠点に活動していた十斗と破軍だったが、十斗が誘う形で事務所を開いたのをきっかけに、一人暮らしのこの部屋に破軍が転がり込んで二人の妙な共同生活が始まった。

***


「なんで破軍が上なわけ?」
 女とは違う重みのある身体が覆い被さって、十斗はベッドに寝そべった姿勢のままで問うた。当然のように十斗の身体の上に乗った男、破軍は訝しむような視線で十斗を見下ろしていた。
「慣れてるのか?」
「いや、オトコは初めて」
 そう十斗が神妙に言えば、破軍は片目を眇めるようにして一瞬十斗の顔を見たかと思うと、すぐに興味を失ったかのように視線を外した。
「・・・なら黙ってされてろ」
 思いがけず凄みのある破軍の声音に、おおこわ、と思いながら十斗は大人しく従った。
 一体どうしてこういう流れになってしまったのか、実のところ十斗自身もよくわかっていない。売り言葉に買い言葉、それとも知らない世界に対する興味か。ただ、風呂上がりのまだ半乾きの濡れ髪をぞんざいに後ろに流しただけの破軍の姿は、どこかいつもと違って見えただけで。
 なにが違って見えたんだろう、と思って自分の身体に乗り上がった破軍の表情を盗み見た。すっかり影に隠れて表情こそ窺えないが、手慣れた気配につい言葉がこぼれる。
「破軍はオトコとシたことあるんだな、」
「悪いか」
「いや、ただなんかちょっと意外なだけ」
 この世には知らない世界があるんだなぁ、とぼんやりと十斗は思う。そういう行為は人並みに好んで嗜んでいたと自負している十斗だったが、さすがに男同士で、というのは己の常識には含まれていなかった。
 だってこう、抱き締めるといい匂いがしてふんわりとしたやわらかいカラダを持った女の子がいいわけであって。ナニがどうしてゴツい男同士でそーゆーことをせねばならぬのか。
 そうこうしているうちに、破軍の手がジーンズのジッパーにかかり、一瞬の開放感を感じる。
「脱がすぞ」
 いやいやもう脱がせてるじゃん、と思いつつ、十斗の許可を得るでもなくさっさと行為を進める破軍のマイペースさに思わず気が抜ける。なんだ、俺緊張してたわけ?
「・・・はぁ、お前相手だとなんか調子狂うんだよな、」
「・・・ハ」
 一人ごちたつもりがどうやら破軍に聞き咎められてしまったらしい。笑ったような短い吐息が首元にかかって、それほど近い距離にいるのだと自覚する。
「これのどこがだ」
 躊躇うことなく十斗自身を取り出した破軍は、どこか面白がっているかのような口調で言う。
「まぁ、健全な男子ですから一応は、」
 触られれば勃ちますよ、と言えば、顔は見えないけれど破軍がなんとなく笑ったような気配がした。
 わずかに芯を持った性器を、指先で探られる感覚が微妙に気まずい。オトコ、それも破軍に自身のそれを握られているこの現状に、戸惑わないと言ったら嘘になる。
 そんな十斗の心境がわかったわけでもあるまい、破軍が不思議そうな口調で呟く。
「ほぅ、お前でも緊張することがあるんだな」
「悪かったな。さすがの俺でも緊張くらいします」
 その言葉が言い終わるか言い終わらないかのうちに、やや強めの力でぐっと握られて。急に与えられた刺激に反射的に立ち上がり始めたそれをようやく弾みをつけて上下に扱かれる。
 体勢のせいで互いにどんな表情をしているのかわからないけれど、見えなくて正解だと思う。
 ちょうど気持ちいい加減で力を込められて、自分でするのとは違う快感が押し寄せてくる。
 何もないところから明確に追い立てられる、単純な行為。
 それが他人の、まして破軍の手によってもたらされているのだと思うと不思議な気もしたが、快楽の前には無意味だった。
 けれど相手の思うがままに追い立てられるのがどうも面白くなくて、どうにか一矢報いたいと思ってしまうのは男の性質なのだろうか。持って行かれそうな意識を他に向けようと思考する。
 そうしてふと、あることを思い出して十斗は呟いた。

「・・・なぁ、あの兄貴はお前のそーゆー嗜好、知ってんのか」
 息継ぎの合間に呟かれた、十斗の突然の問いかけに、破軍は一瞬手を止めた。
 破軍には貪狼という名の兄がいた。年が離れていたこともあり、一族の中で育ったとはいえ親を知らぬ破軍にとってはまさに親のような存在だった。
 人間と凶魔のハーフである留置衆の中でも、特に乱暴者とレッテルを貼られた破軍をいつも庇ってくれたのは兄だった。
 しかし、彼はこともあろうに男装をした女に懸想し、今はその女の元で執事紛いのことをしていた。あの優秀な兄が、そんな立場に身をやつすなど。そのことがどうも破軍には解せなくて、兄弟間の溝が深くなっていた。
 つまらない兄弟ゲンカと言ってしまえばそれまでだった。けれど、破軍にとって貪狼の存在はただの兄に対する想いだけではない。
「『貪狼』の名など、聞きたくもない」
「てことは知らねーの?奈々緒さん相手にするくらいだから兄貴も両方行けるクチ?」
 そう、破軍をより悩ませたのは、兄の思いを寄せる相手が男装の女だということだった。
 せめてそれが、ただの男であったならば。破軍の想いを受け入れてもらう余地が、すこしでもあったならば。
 考えれば考えるほど深みにはまりそうな思考を、破軍は強制的に中断する。
 まったく面白くない、何でこんな時にその話題を持ち出したのか。破軍は上半身を起こして、眼下にある十斗の顔をぎっと睨みつけた。
 その視線に、十斗はようやく破軍の逆鱗に触れていることに気づいたようだった。
「まぁ、お前はお前だからな、いいんじゃねぇ・・・って・・・おいっ・・・!」
 急に体勢を変えた破軍の様子と、ややして自身の性器をくるむ生暖かくて柔らかな感触に、十斗はとっさに腰が引けた。
「・・・っ」
 とはいうものの、ベッドに寝そべったまま破軍に押さえつけられているせいで動くに動けず、腰がぎこちない位置で固まった。
 女にシてもらうのとは違って、どこか食いちぎられでもしそうな不安感と、まぎれもない快感が押し寄せてくる。繊細とは言えないけれど、男同士だからこそわかる微妙な力加減。
「ヤバいって・・・破ぐッ・・・止めっ・・・」
 けれど言葉とは裏腹に気持ちいい快楽の波が押し寄せて。
「マジ、出るって・・・」
 さらに顔を上下に動かしながら攻めてくる破軍に、慌てて頭に手をやって退けようとするも、そこはさすがに男の力と言うべきか、がっちり腰を固定されて叶わない。
「・・・っ・・・!」
 悲しいかな、堪える間もなく、頭が真っ白に弾けて。
 放つ瞬間、無意識に力の入った手のひらに触れた硬い髪が、それが男であることを強く意識させられた。
「・・・ずいぶん溜まってるな、」
 口元を軽く拭うだけでそう言い放った破軍に、げ、ソレ飲んだんですかなどと他人事のように思う。俺は男の飲むなんてまっぴらご免だね。
 何事もなかったかのようにけろっとした様子でベッドを降りた破軍に、どこか不思議な感情を抱くも、十斗にはそれがなんという名前のものなのかいまいちわからない。
 最近知り合ったあの口数の多いちんちくりんの彼女ならば、きっとあぁでもないこうでもないと探るにちがいない。あぁでも男同士って言えないか。ん、挿れてないからセーフ?
 あれこれ難しいことを考えるのを止めて、スキンシップっていうのも相棒としては大事だよな、キモチよかったし、たまにならシてもいいか、と思いながら十斗は満足した心地で再びベッドに沈んだのだった。

タイトル「リビドー=性的衝動」でした。そのまんまだな。
てかたまにならシてもいいとか十斗さん絆されてます。そしておあずけ状態な破軍さんはトイレに篭もります(笑)。
しかし真紀の二人は狙いすぎでなぁ。相棒呼びとか。個人的には破軍→貪狼くらいが萌えます。

(2013/04/28 公開)